歌舞伎座

歌舞伎座 夜景

【DATA】

  • 所在地:東京都中央区銀座
  • 設計:岡田信一郎
  • 施工:大林組
  • 竣工:1924年

 銀座の東のはずれ、築地のほど近くに堂々とした姿を見せる歌舞伎劇場です。遺作である明治生命館に代表される様式建築の名手と謳われた岡田信一郎の設計によるもの。鉄骨鉄筋コンクリート造を採用した従来の和風建築よりはるかに大きなスケールでありながら、和風の意匠を破綻なくまとめています。

歌舞伎座 入口の唐破風
歌舞伎座 昼景

 現在は、大きな唐破風を持つ入口のある棟が、入母屋屋根の架けられた二つの棟をつないだ外観となっていますが、これは、戦災にあった後吉田五十八によって改修されたもの。当初は入口のある部分にも大きな入母屋の屋根が架けられていて、今よりもさらに堂々とした姿をしていたようです。
 コンクリートという可塑的な素材を用いているにもかかわらず、柱梁の取合い、柱頭部二手先の組物、軒裏の垂木、蟇股(かえるまた)など、和風建築の要素が細部に至るまで表現されています。
 この建物が竣工した大正末期は、明治維新以来、西欧の建築技術・文化が次々と導入され、建築家にとってそれらの体得が必須とされた時代。その一方で、当時の建築家は日本独自の建築様式を模索しており、洋式建築の名手と言われた建築家がとった木造に忠実な和風の表現は、その模索に対する回答の一つと考えられます。
 この歌舞伎座と大阪の新歌舞伎座を比べると、いずれも和風をモチーフとしたデザインながら、の表現の違いは非常に明快です。日本の建築家が避けては通れない「現代の和風」という課題に対して、これだけ表現の異なる建築が生み出されたことは、とても興味深いことだと思います。