【DATA】
- 所在地:東京都千代田区丸の内
- 設計:岡田信一郎
- 施工:竹中工務店
- 竣工:1934年
日本における様式主義建築の最高傑作とも評されるネオ・ルネッサンス様式による生命保険会社の本社ビル。設計は歌舞伎座を手掛けた岡田信一郎によるもので、徹底された古典的意匠は、欧米のネオ・クラシシズムの建築にも引けをとらず、昭和の建物として初の重要文化財指定を受けています。コリント様式の5層を貫く大オーダーが最大の特徴で、一見すると何の違和感もなくデザインされているように見えますが、これだけ大規模な建物の中に古典的様式を破綻無くまとめるために、様々な工夫が凝らされています。
外観は、左右対称、三層構成のファサードで、低層部はアーチ窓が連続する石積みの基壇となっています。ただ、この石積みの表現は、眠り目地のような薄い縦目地、それとは対照的に深く取られた横目地、そして壁面の部材と一体的に簡略化したアーチ廻りの部材等から、組積造のマッシブな表現というよりも、ルネッサンス建築に見られるルスティケーションのようなグラフィカルな面的表現に見えます。このアーチに取付けられているグリルは、幾何学模様と植物をモチーフとした装飾を組み合わせた美しいデザインです。
2〜6階にあたる中層部は先述のコリント式大オーダーが並び、その両脇に袖壁が取付き全体を引き締めていますが、皇居側の袖壁の外側をややセットバックさせて縁を切ることで、皇居側と南側のファサードの独立性を強めています。また、7階、8階の高層部に目を移すと、7階がアーキトレーヴ、 8階がフリーズとしてデザインされることで、全体のプロポーションを保っていますが、細部に渡って彫刻が施された軒蛇腹をアーキトレーヴとフリーズ双方に設けることによって、スケールの大きさを吸収しながら全体が引き締められているようです。
内部に目を移し、2階にギャラリーが回された2層吹抜の営業室に入ると、大理石をふんだんに使った贅沢なインテリアとなっていますが、横長のプロポーションの柱頭、天井の八角形をモチーフにしだデザイン、ギャラリーのボーダーに設けられた歪んだ持送りなど、外部とは正反対に西洋建築の様式を崩して用いた自由な意匠が展開されているように見えます。また、内部の照明器具は壁付けのブラケットタイプ、天井釣りのシャンデリア)とも凝ったデザインで、こちらも見所の一つとなっています。
このオフィスビルが竣工した1930年代半ばは、フランク・ロイド・ライトの帝国ホテルが日比谷に姿を現して10年以上が経っており、一方で丸の内の東京中央郵便局をはじめとする逓信省の建築、大阪のそごう百貨店心斎橋店 等、国内にもモダニズムの建築が現れはじめた時期でもあります。そのような時期に、これほど徹底した様式建築が計画されていたことは、 1920〜1930年代にかけての国内の過渡的な状況を顕著に表しています。