【DATA】
- 所在地:東京都台東区上野公園
- 設計:前川國男建築設計事務所
横山建築構造設計事務所 - 施工:大林組
- 竣工:1975年
上野公園の豊かな緑に囲まれた美術館。日本の近代建築に多大な影響を与えた建築家 前川國男の晩年の代表作の一つです。上野公園は、同じく前川國男設計による東京文化会館、コルビュジェが手掛けた数少ない美術館である国立西洋美術館等、数多くの近代・現代建築を見ることができます。
この美術館は延床面積約32,000平米という非常に大きな建築ですが、上野公園内でかつ風致地区という敷地の条件から、床面積の50%を地下に埋めて高さを15.6mに抑えるとともに、建物を一つの大きな建物とせずに分棟配置とすることによって、ボリューム感を軽減しています。これによってこの建物の「巨大さ」は大きく軽減され、打込みタイルの落着いた質感とあいまって公園の環境に溶けこんでいます。
ボリューム感の抑えられた外観の中でも特に4棟が並ぶが印象的で、コーナー部のガラスのカーテンウォールと小さな正方形の窓が開けられただけのシンプルなボリュームが、雁行するように壁面をずらせながら並べられた様子は、イタリア合理主義の建築やルイス・カーンの建築に通ずるものを感じさせます。来場者は建物に囲まれた前庭とを通ってアプローチするようになっていて、
「プラン(平面)にムーブマン(movement)がないといけない」
という前川國男の考え方が、上野公園と一体となった「建築的散策路」として具現化されています。
一方、内部に目を移すと、緩いヴォールト連続するとエントランスホールは、コルビュジェの初期の住宅建築を思わせる空間で、ここを中心にしてサンクンガーデンを囲むように各機能を配置した明快な平面計画となっています。
この建物が竣工した1975年、前川國男氏は、コルビュジェのアトリエで共に過ごした建築家 坂倉準三氏への追悼文の中で、近代合理主義に対する失望感と苦悩を表明しており、『単なる経済的合理主義の論理ではない新しい価値観の論理を見出す』ことの必要性を説いていますが、私たちを取り囲む現在の建築・都市を見回すと、それをいまだ見出せずにいるように感じます。