【DATA】
- 所在地:大阪市中央区久太郎町
- 設計:住友工作部
- 施工:大林組
- 竣工:1930年
近年、近代建築が次々と姿を消している大阪船場地区、堺筋に面して建っていた銀行の支店の建物です。高さと幅の異なる尖塔(先尖り)アーチを3対で1組にし、2組配した左右非対称なファサードが特徴的で、この時代の銀行建築としては大変珍しいものです。
設計は北浜の住友銀行本店、大阪証券取引所等を手がけた長谷部鋭吉と竹腰健三を擁した住友工作部。工作部解散後に開設された長谷部竹腰建築事務所は、この支店の最上階に事務所を構えていたと言います。
この建物が建てられた昭和初期において、信用が最優先される業種である銀行建築のデザインは左右対称が主流で、このように左右非対称なデザインのファサードは非常に珍しい例と言えます。この近辺には優れたデザインの古い銀行が多く並んでいるので(これもずいぶん減りつつありますが)、それらと比べると、この建物がいかに大胆なデザインであったかが分かっていただけると思います。
さらに、興味深いのは長谷部鋭吉を敬愛していたという村野藤吾が、大阪道頓堀の「キャバレー・アカダマ/1932年」の計画案、そして「北國銀行武蔵ヶ辻支店(旧加能合同銀行本店)/1932年」において、この尖塔アーチのモチーフを繰り返して用いていることです。(村野藤吾は「トッペ・アーチ」と呼んでいました)「キャバレー・アカダマ」と「旧加能合同銀行本店」いずれにおいても、この建物のような大きさの異なるアーチを配した左右非対称のファサードが検討されており、設計時期から推察すると、この船場支店にかなりの影響を受けたようにも思われます。
しかしながら、この建物も最近の不景気の波にのまれ、2003年に壊されてしまいました。大阪にある近代建築の中でもとても好きな建物だっただけに非常に残念です。
1976年から1980年までこの建物で勤務していたことを、とても懐かしく思い出します。誇り高い職場でした。・・・・30年を経て、大阪船場を改めて大切にしていきたいと思います。
原口さん、はじめまして。コメントありがとうございます。
船場支店で働かれていたんですね。この建物はそんなに豊富に資料がないようですし、今となってはとても貴重なご体験ですね。内部のデザイン等で特に印象に残っていること等がございましたら、お聞かせいただければ幸いです。