大阪市交通局の庁舎。当初は、大阪市電気局庁舎として建設され、向かいの関西電力九条営業所(大阪市電気局九条電灯営業所)と一体となって密度の濃い都市空間をつくっていました。しかしながら、先に関西電力九条営業所が建替えられ、2004年には交通局庁舎も建替えのために取壊されてしまったとのこと。今となってはこの濃密な空間を体験することはできません。
みなと通りに面して塔屋を持つ外観は、石張りの基壇、縦長の窓が規則的に配されたテラコッタタイル張りの中層部、それとほぼ同じリズムでアーチ窓が配された上層部の3層構成。
低層部は中層・上層の窓2つに対して1つのアーチを配し規則性を持たせる一方で、端部は中層部の2連窓に上層部はプロポーションの異なる一つのアーチ、低層部は中層部合わせた2連窓としてリズム感を変化させることで、ファサードに緊張感を与え全体を破綻なくまとめています。
この建物が持つ空間の密度の濃さは多様なモチーフが配された細部のデザインが大きな要因です。
3層構成の全体像はルネッサンスのパラッツォを髣髴とさせるクラシカルなデザインでありながら、パラペットの軒蛇腹やエントランスポーチの庇は東洋風の複雑な幾何学的モチーフが見られ、そのポーチの庇を支える柱は幾何学を基調としたモダニズム的デザインでありながら、庇裏の天井の格子はクラシカルなデザイン。そうかと思えば、外壁の各所に配されたバルコニーは、大阪倶楽部に見られるような南欧風。一つの建物の外観にこれだけ多様なモチーフが用いられていることは珍しく、これらが互いに衝突せずに濃密な空気をつくりだせていたのは、様々なモチーフが細心の注意を払って用いられると共に、基本となる3層構成と開口部の配置が実にしっかりとデザインされているためでしょう。
当時の大阪市建築課の設計スタッフは敏腕ぞろいで、建築課の歴史の中でも絶頂期にあったといいます。民間が所有する建築物ならともかく、本来なら、行政が率先して、このような優れた文化遺産を活用して欲しいと思うのですが、取壊してしまったことは本当に残念なことです。
【DATA】
所在地:大阪市西区九条南1−12
設計:大阪市建築課
施工:清水組
竣工:1930年(昭和5年)
某スーパーゼネコンの幹部は、
「今の日本の技術なら、砂漠のうえにも超高層ビルを建築できるし、
都庁もひき家できる。国会議事堂も移築できる!」
と豪語していたのを思い出しました。
それなら、これに限らず、いい建物は移築・ひき家して、
内部改装して使えばいいのに・・・
これって、リサイクルではないのかな?(んっ?リユースか)
ゴンタさん、こんばんは。
砂漠の上の超高層に都庁の牽き家!
すごいですねえ。旧首相官邸は牽き家してましたね。他にもいくつか事例があるようですが、特に都庁の牽き家はぜひ見てみたいです!近年、既存建物を用途変更して再利用するリノベーションは、以前ほど特別なことではなくなってきています。
おっしゃるとおり、これってまさにリサイクルですよね。それは近代建築でも同じことだと思います。環境問題に対する意識が高まった現在、修理したり手を入れて使える間は使い続けることって、あたりまえになっていいと思うんですけどね。
産業廃棄物排出量の内訳を見ると、建設業からの排出量は約7,501万トンで18.2%、電気・ガス・熱供給・水道業の約9,225万トン(22.4%)、農業の約9,059万トン(22.0%)に次いで多く排出しています。(環境省報道発表資料H17.11.8より)
さらにこの内訳となるとちょっと分かりませんが、解体される建物が減れば、かなりの産業廃棄物が削減されるでしょうね。