Destroyed House, Marjan Teeuwen

 これまでアフリカ、ガザ、ロシア、オランダ等で製作してきたマリアン・ティーウェン。本展で彼女は、京都の典型的な住宅形式である長屋の3住戸を会場として、1住戸では過去のインスタレーション作品の大きなプリントを展示し、残り2住戸では9作目のインスタレーション作品となる「Destroyed House Kyoto」を製作した。

Photo Exhibition: Destroyed House(2020)photo by Kazuya Urakawa

 彼女は、建築物の解体によって発生した廃材の積層、壁や床、そして階段などの建築的エレメントの再配置によって内部空間を再構築する。生々しい建築部材の断面から、建物解体の事実は視覚的に明確化されるのだが、私たちが解体工事現場と聞いて想像するような雑然とした様子は見られない。むしろインスタレーションを構成する柱状のオブジェクトや壁面等の各部の形状、円や正方形等の大きな開口部、そして抑制された色彩の中に、彼女の明確な構築の意思を読み取ることができる。また彼女の作品の大きな特徴として、耐久性のある工法の建物に対峙するかのように、廃材を積み上げただけの不安定な工法が製作に採用され、作品そのものは決して保存されないことが挙げられる。展示されている写真はそのインスタレーション作品の記録だが、その抑制された画面構成から1つの視点に狙いを定めて製作されていることが伝わる。これは彼女がKYOTOGRAPHIEのインタビューの中で「建物の中に新たな視点を創出する」と述べていることにも一致する。

Photo Exhibition: Destroyed House(2020)photo by Kazuya Urakawa

 ここで建物の解体によって作品をつくる代表的な作家ゴードン・マッタ=クラークと比較しながら、ティーウェンの作品をより深く検証してみたい。
マッタ=クラークは多くの作品で外壁まで干渉を試みる。「スプリッティング」(1974)のように建物を真っ二つに分割することもあれば、「円錐の交差」(1975)のように外部に向かって大きな開口を刳り貫くこともある。一方で、ティーウェンは解体と再構築の範囲を内部に限定し、外壁に手を下すことはない。そのためマッタ=クラークの作品が外部との関係性に影響を及ぼす一方で、ティーウェンの作品は内部で完結する。
さらに幾何学が持つ意味にも大きな違いがある。マッタ=クラークが、建物がそもそも持っていた関係性を再構築する装置として幾何学的な開口部を建物に穿つのに対して、ティーウェンは廃材の再構築によって幾何学的な開口部をつくり出し、鑑賞者が対峙する対象そのものとして取り扱う。
外壁への干渉と幾何学という2つのアプローチにより、解体という行為によって建物に新たな関係性を生み出そうとしたマッタ=クラークに対して、ティーウェンは新たな内部空間をつかみ取ろうとしていることが伺える。

Architectural Installation: Destroyed House Kyoto(2020)photo by Kazuya Urakawa
“Gordon Matta-Clark, Splitting, 1974, Canadian Centre for Architecture, Gordon Matta-Clark collection, © Succession Gordon Matta-Clark/A R S © Estate of Gordon Matta-Clark/A R S.”

 彼女は前出のKYOTOGRAPHIEのインタビューで、自身の作品の中心には『秩序・構築・自立』と『混沌・破壊・崩壊』という二項対立があり、その両極が重要であると述べていた。しかし、それだけにとどまらず、前述の建築と作品の工法の違いに見られるような「パーマネント(半永久的)とテンポラリー(一時的)」という対立をも内包している。さらに今回の「Destroyed House Kyoto」では、解体により剥き出しにされた日本の伝統工法である軸組構造と、インスタレーションに用いられている西洋建築で一般的な組積造との対比から、「日本と西洋」という二項対立を読み取ることも可能になる。 多様な二項対立を内包しながら空間をつかみ取って提示する彼女の作品群は、これは彫刻なのか?建築なのか?そもそも彫刻と建築の違いは何なのか?と問いかけているようだ。

<展示概要>
KYOTOGRAPHIE Main Program 5 / Destroyed House, Marjan Teeuwen
Photo Exhibition: Destroyed House
Architectural Installation: Destroyed House Kyoto
 会場:伊藤佑 町家
 会期:2020/09/19~10/18