Nago , Okinawa , Japan
「地域の礎たらん」
名護市庁舎の定礎板に刻まれたこの言葉に、象設計集団の設計に対する姿勢が表されています。
今から30年以上前になる1979年、沖縄県名護市において、市のシンボルとして長く市民に愛される市庁舎を建設するために、建築設計コンペが実施され、「沖縄における建築とは何か」、「市庁舎はどうあるべきか」という二つの問いかけがなされました。このコンペに対する反響はとても大きいもので日本全国から308件もの提案が集まり、二段階選抜を経て象設計集団が設計者として選定されました。
くすんだ赤色とコンクリートの灰色を基調とした色彩に深い陰影が印象的な外観。芝生広場の向こう側に建つ姿は、市庁舎というよりも東南アジアあたりの遺跡を髣髴とさせる雰囲気です。この芝生広場を囲んで段々にテラスが設けられ、アサギテラスと名付けられたこのテラスには誰もがスロープを通って自由に2、3階のテラスに出入りできます。アサギというのは沖縄の集落で広場に設けられる祭祀用の建物で、アサギのある広場は集落における人々のコミュニケーションの場です。
象設計集団は、真に市民に開放された市庁舎をめざして「市庁舎自体が新しいアサギ広場である」というコンセプトを掲げ、分舎式の間取りやアサギテラス等の工夫によって「開放された市庁舎」を実現しました。アサギを名前に持つテラスは市庁舎にとって重要な役割を担ってるのです。
アサギテラスやバルコニー等の手摺には、戦後の沖縄建築に広く使われている、花ブロックという穴あきブロックがふんだんに使われ、風通しを確保すると共に建物の外観に深い陰影を与えます。また、屋根には日除けルーバーが設けられ、強い日差しによる建物の熱負荷を軽減するとともに、テラスに強い陰影を落とします。外観を印象付ける深い陰影はこのような材料や工法から生み出されたもので、沖縄の気候風土に配慮した涼しさを生み出すための仕掛けが外観に表れた結果でもあります。
一方、芝生広場の反対側の幹線道路に面しては、芝生広場側の分節されたデザインとは対照的に、シンプルなシルエットの大きなファサードが聳え立ちます。
幹線道路側のファサードも軒の深いバルコニーと花ブロックによって強い陰影が生み出され、壁一面に並べられた56体のシーサーとともにインパクトのある外観をつくりあげています。56という数は名護市内の55集落+市庁舎からきているとのこと。市庁舎が56番目のアサギ広場であるという意思表明といえるでしょう。56体すべて異なるデザインのシーサーはこの市庁舎の見所のひとつです。
細部に目を移すと、焼き物でできた扉の押板、石やタイルを埋め込んだ床のレリーフなど、手作り感あふれる象らしいディテールが随所に見られます。
この建物の平面は4本の組柱を用いたダブル・グリッドで構成されています。短い柱間には廊下や階段、通風を室内に確保するための風のミチ等が設けられ、ルイス・カーンが提唱したサーブド・スペースとサーバント・スペースに近い考え方の空間構成です。
この市庁舎は、花ブロックやルーバー等の近代的な工法を採用しながら「アサギ広場」という沖縄の伝統的空間をめざし、単なる伝統的な建築の模倣によることなく、地域性の表現と新しい空間の創出が両立されています。一見すると地域主義的な考え方が強く押し出されているようで、実は機能主義的なデザインが垣間見えるところも興味深く、竣工から30年経った現在でも新鮮な空間体験をもたらしてくれる貴重な建築です。
【DATA】
- 所 在 地:沖縄県名護市港1丁目1-1
- 竣 工:1981年
- 構造/階数:鉄骨鉄筋コンクリート造/地上3階
- 設 計:象設計集団+アトリエ・モビル
- 施 工:仲本工業・屋部土建・阿波根組共同企業体
ピンバック: 公共建築のイメージをぶち壊した!『名護市庁舎』がめちゃくちゃ格好良い | アネモネ