【DATA】
- 所在地:大阪市中央区難波千日前
- 設計:村野・森建築事務所
- 施工:大成建設
- 竣工:1987年(昭和62年)
大阪を代表する繁華街である難波の東側、千日前に位置する笑いの殿堂「吉本興業」の大衆劇場。村野藤吾氏がお亡くなりになった後に竣工したためか、作品集で大きく紹介されていないものの、その存在はなかなか侮ません。ヴォリューム感のある銅版噴きの大屋根、その大屋根をグルリと取り囲む壁。その壁は、1つの柱間を「1単位」として、花をモチーフにした高窓、その下に大きな開口と両脇に縦長のバルコニーが配され、これが繰り返されるデザイン。イタリアの建築をご存知の方なら、この外観が非常に大胆な建築版「本歌取り」であることにお気付きになると思います。
その「本歌」とは、ルネッサンスの建築家アンドレア・パッラーディオによるヴィチェンツァのバシリカ。市議会や裁判などに使われたホールで、ヴィチェンツァのシンボル的存在。パッラーディオが手掛けたのは、12、3世紀からあったホールを補強するためにホールの外側を囲んだアーケードで、ファサードは、アーチと柱を組み合わせた「セルリアーナ」という建築的モチーフを2層に渡って繰り返したデザインとなっています。
ファサードの構成に1層、2層の違いはあるものの、大屋根とそれを取り囲む壁という外観のデザインがバシリカに由来していることは、2つを比べてみれば明らかですし、ファサードを構成する「単位」も、大小の開口の組合せは「セルリアーナ」を抽象化したように見えます。バシリカと大衆劇場に共通する「公共性」というキーワードが、「本歌取り」の対象としてバシリカを選ばせたように思われます。
ヴィチェンツァのバシリカ
細部に目をやると、白とピンクのタイルを斜めに張った外壁が華やかさを添えていて、この表現はヴェネツィアのパラッツォ・デゥカーレを彷彿とさせるのも興味深いところですし、近鉄百貨店 阿倍野店や同じく阿倍野にある村野・森建築事務所でも用いられていた、既成のエキスパンドメタルに少し加工することで華やかさを加えたフェンスや手すりも見られます。
パラッツォ・デゥカーレ
この劇場を中心とした千日前界隈は、ミナミの中でも難波や心斎橋では感じられない猥雑な雰囲気が漂う場所である一方で、連日、吉本新喜劇を見に来る観光客が押し寄せる賑わいの絶えない場所です。この劇場は、このような高度な建築的表現に支えられているからこそ、街の猥雑さと賑わいという相反する空気を受け止められるように思います。
本家イタリアでも圧倒されます(笑)
ayakoさん、こんばんは。
この劇場、作品集や雑誌などに取り上げられたことが
ほとんどないようです。
かなり見ごたえがあると思うんですけどね。