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【DATA】
- 所在地:大阪市中央区難波
- 設計:村野・森建築事務所
- 施工:大林組
- 竣工:1958年
キタとミナミをつなぐ大阪のメインストリート、御堂筋の南端に建つ、寄棟の大屋根と連続する唐破風の庇が特徴的な大衆劇場です。大屋根と唐破風を組合わせたデザインは、昭和初期の銭湯などにも見ることができますが、唐破風が繰返し用いられているためか、一見してそれらとは異なる印象を受けます。
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
建設当初、桃山調の唐破風が連続するその外観に対して多くの非難を浴びたそうですが、このように和風のモチーフを記号的に繰返したデザインは他にほとんど例がなく、しかも、幾何学的な鬼瓦や簡略化されたバルコニーの高欄など、細部のデザインが細心の注意を払って抽象化されることで、和風と洋風を重ね合わせた帝冠様式と呼ばれる建築とは違った軽やかなデザインとなっており、ミナミの街並みに対して大変強いインパクトを与えたであろうことは、想像に難くありません。
この舞台装置の描き割りを思わせる軽やかさは、劇場としては恵まれてるとは言えない奥行きの浅い敷地に、劇場という大きなボリュームを都市に対峙させるための装置として機能しているように思います。
その名前が表すとおり当初は歌舞伎劇場として使われていたようですが、今となっては歌舞伎が演じられることはほとんどないようです。私がこの建物を知った頃には既に演歌歌手等の興行に利用されていたため、一度も中に足を踏み入れる機会がありませんでした。そのため内部は雑誌等の写真で見たことしかないのですが、直線、正方形、曲線のモチーフを巧みに用いたその空間は、 50年近くを経現在でも新鮮な「和風」の空間となっているようです。
残念ながら、一般に、この建物の良さはあまり評価されていないようにも感じますが、写真のようにライトアップされるとその軽やかさがいっそう強調され、その良さがミナミの街に浮かび上がってくるようです。