【DATA】
- 所在地:大阪市中央区心斎橋
- 設計:村野建築事務所
- 施工:大倉土木(現 大成建設)
- 竣工:1935
先日、会社更生法を申請したそごう百貨店の本店の建物ですが、新本店建設のために取り壊されてしまったため、この姿を見ることはできません。
村野藤吾は指名設計競技によって設計者として選ばれ、これを期に渡辺節の事務所から独立しています。社運をかけた大事業を独立間もない若い建築家に依頼することは、クライアントにとって大きな賭けだったと思われますが、「そごうの命運の6割は建物にかかっている」と建築家に対して告げたエピソードがその決断の重大さと建築家に対する信頼を物語っています。
御堂筋に面したファサードは、奥行き約50cmの縦型ルーバーを連続させ、さらにそれを縦横に分割する幾何学的な手法によって構成されており、日本最初期のインターナショナルスタイルの建築の一つと言われています。建設当初はルーバーにはトラバティン(大理石の一種)が張られていましたが、戦後の進駐軍による接収後の改修の際にモザイクタイルに変えられました。直線を基調としたファサードの中央より南側には曲線を組合わせた平面形の塔が、さらにその南側には彫刻家 藤川勇造(1883-1935)によるブロンズ像「飛翔」が配されており、その全体像からはインターナショナルスタイルというよりも、村野自身が強い影響を受けたと語っているロシア構成主義からの影響がうかがえます。
内部にはアールデコ風の豊穣なデザインが展開されているほか、御堂筋側には植物をモチーフにしたレリーフが見られ、ここにもインターナショナルスタイルという概念だけではくくれない面が見て取れます。特に御堂筋側メインエントランス天井の夜空を描いたようなモザイク装飾は大きな見所です。(内部の写真をほとんど撮影していなかったことが悔やまれます)
このように実に多彩なデザインが隅々まで展開されていますが、一方で建築家は「光」を設計の主要なテーマとしていたのではないかと考えられます。ルーバーの間に嵌められたガラスブロックから外部に光が発せられるとともに、庇と塔に組み込まれたネオンが水平、垂直に伸びてアクセントとなり、さらにライトアップされた陰影の深いファサードの表情はとても美しいもので、様式的な装飾に頼ることなく百貨店として相応しい華々しい空間が生み出されました。この姿が御堂筋から消えてしまったことが本当に残念でなりません。
この向かいに建つ心斎橋OPAは全体がガラスブロックで覆われ、夜になると光の塊となって心斎橋の街を照らしていますが、そごうを強く意識した上でデザインされたように感じられます。
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