Places of Amnesia

Places of Amnesia

土地の守護霊に対する信仰は洋の東西を問わず存在し、日本の神道では地主神(じぬしのかみ)と呼ばれています。現代でも建設工事の着工前に地鎮祭が執り行われるのは、日本において土地信仰が今でも根強く残っていることの表れでしょう。一方、ヨーロッパの土地の守護霊の代表的なものとしては、古代ローマ神話に伝わる土地の守護精霊 ゲニウス・ロキが知られています。イタリアの建築家 アルド・ロッシは著書「都市の建築」の中で、ゲニウス・ロキを仲立ちとして結ばれた、場所と構築物の特異でありながら普遍的な関係を「場」と定義し、その構築物が場所の記憶という価値を一手に引き受け、空間、時間、地理的規模や形態、その歴史の新旧、そして記憶によって「場」が決定づけられると述べています。

現代の日本の都市における土地と建物の関係に目を移すと、根強く残る土地信仰とは対照的に、建物はあまり大切にされることなく耐久消費財のように扱われ、経済の論理が先行して解体されてしまう傾向にあるようです。国内の多くの都市で無個性な新しい町並みを目にしますが、経済の論理が先行してスクラップ・アンド・ビルドが繰り返された結果、新しい建物が特異でありながら普遍的な土地との関係を築けなかった結果に思われてなりません。これは建築家 レム・コールハースが唱えた「ジェネリック・シティ」(無個性な都市)を地で行くような事態です。

東京の北東部に位置する向島は、スクラップ・アンド・ビルドを繰り返してドラスティックな変化を遂げた都心部とは対照的に、戦前から戦後の特徴的な建物が数多く残る場所の記憶を感じられる地域でしたが、この10年ほどの間に地域の様子が大きく変わり、町並みを特徴付けていた数多くの建物が姿を消していきました。2017年の春頃に急速な変化を感じて以来、向島に発生した空き地をGoogle Mapに記録してきましたが、2017年6月から2024年4月までの約7年間に記録した空き地は638か所、その面積の合計は約20ha(ヘクタール)を超えていました。そして、2021年のオリンピック前から沸き起こった好景気が加速した空き地の発生は、多少減速しながらも止まることなく続いています。

土地と建物が長い時間をかけて記憶を蓄積しながら「場」を醸成してきたとしても、私たちは空き地に向かい合った時、かつて建っていた建物を思い出すことができません。この事実は、土地自体に「場」が宿っているのではなく、ロッシが述べたように、土地と建物との関係が「場」を醸成していることを裏付けているように思えます。このプロジェクトで私が提示するのは、7年間に観測してきた空き地の記録です。都市におけるスクラップ・アンド・ビルドは場所の記憶を白紙にして上書きする行為であり、生じた空き地はスクラップ・アンド・ビルドの転換点である「アンド」の瞬間、都市の長い歴史における束の間の「不在」です。そこには当然のことながら何も無く、露わにされた土地に「ゲニウス・ロキ」も「場」も見つけることはできませんでしたが、そのぽっかりと空いた空間に漂う違和感は、逆説的に「場」の意義を示しているのかもしれません。

2024 年6 月 浦川和也