新風館(旧京都中央電話局)

新風館 アトリウム

【DATA】

  • 所在地:京都市中京区烏丸通姉小路下ル場之町
  • 設計:逓信省営繕課(吉田鉄郎)
    (改修)NTTファシリティーズ、リチャード・ロジャース・パートナーシップ・ジャパン
  • 施工:清水組、(改修)清水建設
  • 竣工:1931年、(改修)2000年

東京中央郵便局、大阪中央郵便局 でご紹介した逓信省の建築家 吉田鉄郎設計による昭和初期の電話局の建物が、70年の時を経て商業施設として生まれ変わりました。生まれ変わったと言っても、スクラッチタイル張りの外壁にアーチが連続するファサードは当初のままなので、一見しただけでは大きく改修されたようには見えませんが、南側に増築された濃い青色の柱が並ぶアトリウムが中の雰囲気を暗示しています。

新風館 ファサード
新風館 新設のバルコニーと階段
新風館 側面のアーチ

既存の電話局は烏丸通と御池通に面したL字型平面の3階建ての建物で、アーチが繰り返されたシンプルなファサードですが、アーチ内のタイルの貼り方が階層によって変えられていたり、エントランスにクロス・ヴォールト(交叉したアーチ状の天井)が架けられたりと、吉田鉄郎による二つの郵便局とは違って凝ったディテールを見ることができます。
このシンプルな建築に新しいものを付け加えることは、設計者にとって非常に難しい問題だったと思いますが、ここでは見事な解決策が施されています。L字型平面の既存の建物にコの字型の建物を付け加え、ロの字型の平面形と中庭をつくりだし、その中庭に面して濃い青色の歩廊がぐるりと廻されています。しかも、増築部分には外側に開口部を一切設けず、全ての店舗には中庭からしか入れないようプランニングされていて、中庭を主役にしようとする意図が非常に明確に現れています。
この増築部分は既存の素材や形状を真似るのではなく、鉄骨造にALC(軽量気泡コンクリート)パネルという安価な材料でシンプルなデザインとすることで、スクラッチタイルが貼られた表情豊かな既存の建物と対比されますが、歩廊が全体まとめる役割を果たしており、まったく違和感はありません。また、既存建物に入った店舗は元の空間を生かしたインテリアとなっているのも、非常に好感が持てます。
近代の建築は、時代が近いせいもあり未だ評価が定まらないことが多いため、惜しまれながら壊されていくか、運良く残ったとしても、何らかの手を加えられた場合は、元の建築が持つ良さを活かして保存されるケースは非常に稀です。コスト的に非常にシビアな商業建築として生まれ変わったこの建築は、近代建築保存の数少ない好例になっていると思います。